医療救援者のメンタルヘルスに重要と考えられる 10 個の推奨事項

医療救援者のメンタルヘルスに重要と考えられる 10 個の推奨事項

派遣前

①平時から身体的、精神的な健康や周囲の人との良好な関係を意識しましょう。

平時の身体・精神的な健康が良好であることは平時および派遣活動中・後のメンタルヘルスの悪化を防ぐ要因です1,2。また、職場や家庭などでの良好な人間関係は、派遣活動中の周囲からのサポートを得られる環境や、活動後の職場や家庭においてサポートを得られるとともにトラブルを防ぐことができ、メンタルヘルスの悪化の防止に有効であると考えられます2,3

②ご自身の体調および職場や家庭の状況によって派遣活動への参加を検討しましょう。

先行研究より、メンタルヘルスの悪い状態での派遣活動への参加は活動後のメンタルヘルスの悪化の要因の1つであることが報告されています1,2。職場や家庭が大変な状況の中での派遣活動に参加することは、メンタルヘルスの悪化要因であることも報告されています2,4。ご自身の体調や状況に応じて、派遣活動への参加をご検討ください。

③支援者のメンタルヘルスに関する研修や派遣活動のロールプレイ等への参加が推奨されます。

派遣活動前に、支援者のメンタルヘルスに関する研修(心理的応急処置研修: PFA研修、等)や派遣活動のロールプレイ等に参加し、知識を身につけておくことは活動後のメンタルヘルスの悪化を防げる可能性が示唆されています1,2,4,5

派遣中

④派遣活動の重要性を見失わず、頭の中と心を整理することを心がけましょう。

派遣活動の重要性を見失わないように心がけましょう3,4,6。日報・手記・日記等に記録をつけることで、頭の中と心を整理することは有用かもしれません4,6

⑤支援者としてできることには限界があることを認識し、無理な活動はしないようにしましょう。

支援者がすべての業務をこなすことや、すべての問題を解決できることはできないことを認識し、自分を責めたり、過度な活動をしないようにすることはメンタルヘルスの悪化を防ぐために重要であると考えられます4,6

⑥業務のローテーションに従って活動を行い、十分な休息とセルフケアを行いましょう。

派遣活動中の長期間の勤務や長時間のトラウマ曝露は、活動後のメンタルヘルスの悪化要因であることが報告されています2,3,4,7。業務のローテーションに従い、十分な休息をとることがメンタルヘルスに重要です。十分な睡眠、十分な食事・水分を摂取する等のセルフケアは、派遣活動中・活動後のメンタルヘルスの悪化を防ぐ要因であることが報告されています3,6,7,8

⑦周りの人とこまめにコミュニケーションを行い、一人でためこまず周りの人に相談をしましょう。

派遣活動中に周りの人とコミュニケーションをとり、周囲のサポートを得られることは派遣活動中・活動後のメンタルヘルスの悪化を防ぐ要因であることが報告されています2,3,4,6。派遣活動中に遠方の家族や友人に連絡をとることも有用である可能性があります4,6

派遣後

⑧派遣活動後は休息をしっかりと取りましょう。

派遣活動後は休日を取り、しっかりと休息をとることがメンタルヘルスの悪化を防ぐために重要であることが報告されています1,3,4。派遣活動後に、平時の業務に戻る前にはできるだけ休息をとることが推奨されます。

⑨自身の心身の状態を確認し、不調がある際には相談をしましょう。

派遣活動後には、人間の自然な反応として、心身の不調が発生する可能性があります。派遣活動後には自身の心身の状態を確認することが重要です1,4,9,10。ご体調が本調子ではない状態が続く場合には、周りの人への相談や、医療機関の受診が推奨されます1,2,3,4,7

⑩派遣活動の意義や体験を、時間が取れるときに、整理しましょう。

派遣活動後には、時間が取れる際に、派遣活動の意義や体験を整理しましょう2,4。チームメンバーや職場の同僚と振り返りを行うことは、メンタルヘルスに重要である可能性があります1,3,4


参考文献

  1. Khatri, J., Fitzgerald, G., & Poudyal Chhetri, M. B. (2019). Health Risks in Disaster Responders: A Conceptual Framework. Prehospital and disaster medicine, 34(2), 209–216.
  2. Brooks, S. K., Dunn, R., Amlôt, R., Greenberg, N., & Rubin, G. J. (2016). Social and occupational factors associated with psychological distress and disorder among disaster responders: a systematic review. BMC psychology, 4, 18.
  3. 高橋晶 (編), (2018), 災害支援者支援, 日本評論社.
  4. 長野県精神保健福祉センター, (2015), 災害時のこころのケア2015~支援者マニュアル~.
  5. Opie, E., Brooks, S., Greenberg, N., & Rubin, G. J. (2020). The usefulness of pre-employment and pre-deployment psychological screening for disaster relief workers: a systematic review. BMC psychiatry, 20(1), 211.
  6. 重村淳, 金吉晴 (監修), (2010), 災害救援者・支援者メンタルヘルス・マニュアル.
  7. Smith, E. C., Holmes, L., & Burkle, F. M. (2019). The Physical and Mental Health Challenges Experienced by 9/11 First Responders and Recovery Workers: A Review of the Literature. Prehospital and disaster medicine, 34(6), 625–631.
  8. Asaoka, H., Koido, Y., Kawashima, Y., Ikeda, M., Miyamoto, Y., & Nishi, D. (2020). Post-traumatic stress symptoms among medical rescue workers exposed to COVID-19 in Japan. Psychiatry and clinical neurosciences, 74(9), 503–505.
  9. Kawashima, Y., Nishi, D., Noguchi, H., Usuki, M., Yamashita, A., Koido, Y., Okubo, Y., & Matsuoka, Y. J. (2016). Post-Traumatic Stress Symptoms and Burnout Among Medical Rescue Workers 4 Years After the Great East Japan Earthquake: A Longitudinal Study. Disaster medicine and public health preparedness, 10(6), 848–853.
  10.  Nishi, D., Koido, Y., Nakaya, N., Sone, T., Noguchi, H., Hamazaki, K., Hamazaki, T., & Matsuoka, Y. (2012). Peritraumatic distress, watching television, and posttraumatic stress symptoms among rescue workers after the Great East Japan earthquake. PloS one, 7(4), e35248.

 


このページは、厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「国土強靭化計画をふまえ、地域の実情に応じた災害医療提供体制に関する研究(研究代表者:小井土雄一、研究期間:令和元年度~令和3年度)」「大規模災害時における地域連携を踏まえた更なる災害医療提供体制強化に関する研究(研究代表者:小井土雄一、研究期間:令和4年度~令和年度)」の西大輔(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野)分担班の研究成果を掲載しています。