2025年の業績

原著論文

  1. Asaoka H, Koido Y, Kawashima Y, Ikeda M, Miyamoto Y, Nishi D. The Relationship Between the Experience of Rescue Activities in the 2024 Noto Peninsula Earthquake and Posttraumatic Stress Symptoms and Psychological Distress Among Medical Rescue Workers. Disaster Med Public Health Prep. 2025 Sep 4;19:e257. doi: 10.1017/dmp.2025.10186
    日本語要約

    令和6年能登半島地震の救助活動を行った医療救援者における活動中の経験と心的外傷後ストレス症状および心理的苦痛との関連

    【背景・目的】大規模災害の救助活動を行った医療救援者において活動後にメンタルヘルスの問題のリスクが報告されています。メンタルヘルスの問題と関連する令和6年能登半島地震の救助活動の経験を明らかにすることは、今後の医療救援者のメンタルヘルス研究や対策を検討するために必要です。本研究は、令和6年能登半島地震の救助活動を行った医療救援者における活動中の経験と心的外傷後ストレス症状および心理的苦痛との関連を明らかにすることを目的としました。

    【方法】2024年3月8日から3月31日に令和6年能登半島地震の救助活動を行った災害派遣医療チーム(DMAT)隊員に調査を実施しました。従属変数は心的外傷後ストレス症状および心理的苦痛、独立変数は能登半島地震における救助活動の経験およびPeritraumatic Distress Inventory(PDI)で測定した周トラウマ期の心理的苦痛としました。

    【結果】1085名のDMAT隊員より回答を得ました。重回帰分析より、被災地の悲惨な状況に圧倒された経験(B = 0.61, p < 0.01)、救助活動中の医療救援者間の意見の不一致や対立の経験(B = 0.51, p < 0.01)、PDI(B = 0.33, p < 0.01)が心理的苦痛、救助活動中の医療救援者間の意見の不一致や対立の経験(B = 1.70, p < 0.01)とPDI(B = 0.65, p < 0.01)が心的外傷後ストレス症状と有意に関連していました。

    【結論】本研究は、大規模災害の救助活動を行う医療救援者において、本研究が明らかにした心的外傷後ストレス症状および心理的苦痛に関連する救助活動中の経験への対策と、これらを経験した医療救援者へのメンタルヘルス支援の必要性を示唆しており、今後の研究への重要な知見を示しました。

  2. Doi SK, Takae A, Kanamori Y, Ito Y, Kamo S, Iida M, Asaoka H, Miyamoto Y, Suzuki M, Manome Y, Nishi D. The effect of a trauma-informed care video training program for midwives: A randomized controlled trial. Women Birth. 2025 Oct 8;38(6):102115. doi: 10.1016/j.wombi.2025.102115.
    日本語要約

    助産師を対象としたトラウマインフォームドケア動画研修の効果:無作為化比較試験
    【背景】トラウマインフォームドケア(TIC)とは、すべての人にこころのケガがある可能性を念頭に置いたケアの考え方である。日本において女性の約74%が過去に何らかのこころのケガを経験しており、助産師のTICの実践が求められている。

    【目的】本研究では、助産師を対象としたTIC動画研修プログラムの効果を検討するため、無作為化比較試験を行った。

    【方法】先行研究および周産期ケアにおけるTIC実践のための重要な要素に基づいて、動画ベースのTIC研修プログラムを開発した。高度医療を提供する病院に勤務する助産師を対象に、介入群と対照群に無作為に割り当て、介入群には2か月間、個別に研修を提供した。助産師のTICに対する態度、職場の心理的安全性、バーンアウトは、介入前、介入直後、および3か月後に評価した。線形混合モデルを用いた解析により、群と時間の交互作用を介入効果として検討した。

    【結果】42名の助産師が本研究に参加した。介入開始から3か月後、介入群(N=21)は対照群(N=21)と比較して、TICに対する態度 (t = 2.38, p = 0.02)、職場の心理的安全性 (t = 2.57, p = 0.01)、およびバーンアウトにおける対人関係の遮断 (t = -2.77, p = 0.008) に対して、有意に好ましい効果を示した。

    【考察】本研究によって、助産師向けのTIC動画研修プログラムが、TICに対する態度、職場の心理的安全性、およびバーンアウトにおける対人関係の遮断に対して有効である可能性が示唆された。

  3. Ito Y, Sasaki N, Tezuka K, et al. Antenatal and postpartum depression among women who conceived after pregnancy loss: a longitudinal study. Arch Womens Ment Health. 2025;28(5).
    日本語要約

    【目的】これまでの研究でも、過去の妊娠喪失経験(流産・死産・中絶など)と周産期うつ病の関係は調べられてきました。しかし、その多くは特定の時期だけの状態を調べる横断研究であり、うつの評価にはスクリーニングツールが用いられていました。そこで、本研究では、WHO-CIDI 3.0というより精度の高い診断評価ツールを用いて、妊娠中から産後にかけて縦断的に調査しました。

    【方法】2019年11月から2020年3月にかけて行われた研究に参加した妊婦さんのデータを分析しました。過去の妊娠喪失の経験回数(「経験なし」「1回」「2回以上」)によって、妊娠中期(16~20週)から産後3ヶ月までの間に周産期うつ病を発症するリスクがどう変わるかを、AFTモデルという統計手法を用いて評価しました。

    【結果】最終的に2,347人のデータを分析しました。その結果、過去に2回以上の妊娠喪失を経験した女性は、経験がない女性に比べて、周産期うつ病を発症するリスクが高いことが明らかになりました。一方、1回だけ経験した女性と、経験がない女性との間には、リスクに統計的に意味のある差は見られませんでした。

    【結論】
    妊娠喪失を繰り返した経験のある女性は、診断がつくレベルの周産期うつ病になるリスクが高いと言えます。したがって、こうした経験を持つ妊婦さんを対象として、周産期うつ病を予防するための支援策を考えることが非常に重要です。

その他


過去の研究業績