所属組織として医療救援者のメンタルヘルスに重要と考えられる推奨事項

所属組織として医療救援者のメンタルヘルスに重要と考えられる推奨事項

災害等への派遣活動のご実施に深く感謝申し上げます。病院の方々のご理解・ご協力があってこそ、災害支援活動が成り立っております。また、病院外の活動による社会への貢献に感謝申し上げます。病院外での経験や災害支援活動によって構築されたネットワークを所属病院に持ち帰っていただくことで、本来の業務にも経験やネットワークが寄与することをDMAT・DPAT事務局としては期待しております。

科学的エビデンスやガイドライン、インタビューを参考に、所属組織として医療救援者のメンタルヘルスに重要と考えられる7つの推奨事項を作成いたしました。ご所属の医療救援者の方々の健康のためにご活用いただけますと幸いです。

ご意見や医療救援者を送り出すにあたって困られること等がございましたら、是非ご教示ください。この推奨事項は、必要に応じて改定させていただく可能性があります。

派遣前

①医療救援者のメンタルヘルスをストレスチェック等にてチェックしておくことが推奨されます。

先行研究より、医療救援者がメンタルヘルスの悪い状態での派遣活動への参加は活動後のメンタルヘルスの悪化の要因の1つであることが報告されています1,2。職場や家庭が大変な状況の中での派遣活動に参加することは、メンタルヘルスの悪化要因であることも報告されています1,3。医療救援者のメンタルヘルスをチェックし、医療救援者の体調や状況に応じて派遣活動への参加をご検討ください。

②医療救援者がメンタルヘルスに関する研修等への参加できるようにすることが推奨されます。

医療救援者は、派遣活動前に支援者のメンタルヘルスに関する研修(心理的応急処置研修: PFA研修、等)や派遣活動のロールプレイ等に参加し、知識を身につけておくことは活動後のメンタルヘルスの悪化を防げる可能性が示唆されています1,2,3,4。医療救援者がこれらの研修への参加できるようにすることが、医療救援者のメンタルヘルスの悪化の防止に重要です。

派遣中

③派遣活動に参加する医療救援者と病院勤務を行うスタッフのどちらにも労いが必要です。

派遣活動に参加する医療救援者において、職場での良好な人間関係は、活動後の職場においてサポートを得られるとともにトラブルを防ぐことができ、メンタルヘルスの悪化の防止に有効であると考えられます1,5。平時から医療救援者と病院勤務を行うスタッフが良い関係性を築いておくことが重要です。組織として、医療救援者は被災者の救助に貢献しており、病院に残るスタッフも間接的に被災者を助けている等のメッセージを発信することは有用かもしれません。派遣活動中の医療救援者が、必要時には連絡を取れるようにしておくようにしましょう。

派遣活動中に周囲のサポートを得られることは派遣活動中・活動後のメンタルヘルスの悪化を防ぐ要因であることが報告されています1,4,5,6。派遣活動中に遠方の家族や友人に連絡をとることも有用である可能性があります4,6。派遣活動中の医療救援者が、必要時には職場と連絡を取れるようにしておくことは有用かもしれません。

派遣後

⑤派遣活動後は、医療救援者が休息をしっかりと取れることが重要です。

派遣活動後に、医療救援者が休日を取り、しっかりと休息をとることがメンタルヘルスの悪化を防ぐために重要であることが報告されています3,4,5。派遣活動後に、平時の業務に戻る前にはできるだけ休息を設けることが推奨されます。

⑥医療救援者が派遣活動の意義や体験を共有できることが推奨されます。

派遣活動後には、チームメンバーや職場の同僚と振り返り、派遣活動の意義や体験を整理できることは、メンタルヘルスに重要であるだけでなく、医療従事者としての成長につながる可能性が示唆されています1,2,3,5。病院内での報告会や、院内報での活動の周知は有用な可能性があります。

⑦派遣活動後は医療救援者の心身の状態を確認し、不調がある際にはケアや治療を受けられることが推奨されます。

派遣活動後には、人間の自然な反応として、心身の不調が発生する可能性があります。派遣活動後には医療救援者の心身の状態を確認することが重要です2,3,7,8。医療救援者の体調が本調子ではない状態が続く場合には、信頼できる人への相談や産業医との面談、業務量の調整、医療機関の受診が推奨されます1,2,3,5,9


参考文献

  1.  Brooks, S. K., Dunn, R., Amlôt, R., Greenberg, N., & Rubin, G. J. (2016). Social and occupational factors associated with psychological distress and disorder among disaster responders: a systematic review. BMC psychology, 4, 18.
  2.  Khatri, J., Fitzgerald, G., & Poudyal Chhetri, M. B. (2019). Health Risks in Disaster Responders: A Conceptual Framework. Prehospital and disaster medicine, 34(2), 209–216.
  3.  長野県精神保健福祉センター, (2015), 災害時のこころのケア2015~支援者マニュアル~.
  4.  Opie, E., Brooks, S., Greenberg, N., & Rubin, G. J. (2020). The usefulness of pre-employment and pre-deployment psychological screening for disaster relief workers: a systematic review. BMC psychiatry, 20(1), 211.
  5.  高橋晶 (編), (2018), 災害支援者支援, 日本評論社.
  6.  重村淳, 金吉晴 (監修), (2010), 災害救援者・支援者メンタルヘルス・マニュアル.
  7.  Kawashima, Y., Nishi, D., Noguchi, H., Usuki, M., Yamashita, A., Koido, Y., Okubo, Y., & Matsuoka, Y. J. (2016). Post-Traumatic Stress Symptoms and Burnout Among Medical Rescue Workers 4 Years After the Great East Japan Earthquake: A Longitudinal Study. Disaster medicine and public health preparedness, 10(6), 848–853.
  8.  Nishi, D., Koido, Y., Nakaya, N., Sone, T., Noguchi, H., Hamazaki, K., Hamazaki, T., & Matsuoka, Y. (2012). Peritraumatic distress, watching television, and posttraumatic stress symptoms among rescue workers after the Great East Japan earthquake. PloS one, 7(4), e35248.
  9.  Smith, E. C., Holmes, L., & Burkle, F. M. (2019). The Physical and Mental Health Challenges Experienced by 9/11 First Responders and Recovery Workers: A Review of the Literature. Prehospital and disaster medicine, 34(6), 625–63.

 


このページは、厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「国土強靭化計画をふまえ、地域の実情に応じた災害医療提供体制に関する研究(研究代表者:小井土雄一、研究期間:令和元年度~令和3年度)」「大規模災害時における地域連携を踏まえた更なる災害医療提供体制強化に関する研究(研究代表者:小井土雄一、研究期間:令和4年度~令和年度)」の西大輔(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野)分担班の研究成果を掲載しています。