COVID-19パンデミック時の医療従事者において、心理的応急処置(Psychological First Aid : PFA)の研修の受講経験と心理的苦痛の推移を示した研究
心理的応急処置(Psychological First Aid : PFA)は、災害直後の人々の急性の心理的苦痛を和らげ、継続的なメンタルヘルスケアの必要性を評価するために開発されたトレーニングです。PFAは、支援者から被災者へのメンタルヘルスケアの向上だけでなく、支援者自身のメンタルヘルスの改善にも効果があることが報告されています。COVID-19パンデミック中の医療従事者において、PFAの受講経験は自身のメンタルヘルスの悪化を防ぐ可能性がありますが、その関連は十分に調査されていませんでした。本研究は、COVID-19パンデミック前からパンデミック中における医師およびその他の医療従事者において、PFA受講経験がある医療従事者とPFA受講経験がない医療従事者の心理的苦痛の長期的な変化を比較することを目的としました。
東京大学大学院医学系研究科精神保健学・精神看護学分野では、2020年5月に第1回調査、2020年5月に第2回調査、2020年10月に第3回調査を災害派遣医療チーム(DMAT)および災害派遣精神医療チーム(DPAT)に所属する医療従事者を対象に実施いたしました。その結果、医師以外の医療従事者の縦断的な分析では、PFA経験のない群では、PFA経験のある群よりも心理的苦痛が有意に大きいことが示されました。医師においては、PFA受講経験がある群とPFA受講経験がない群の心理的苦痛に有意な差はありませんでした。
本研究より、COVID-19パンデミック時の医師以外の医療従事者の心理的苦痛に対するPFAの有効性が示されましたが、医師においては同様の結果はみとめられませんでした。医療従事者のさまざまな職種におけるPFAトレーニングのメンタルヘルスに対する有効性を理解するためには、介入研究等のさらなる研究が必要であると考えられました。
この研究はInternational Journal of Environmental Research and Public Healthに2021年11月26日付で掲載されました。
Asaoka H, Koido Y, Kawashima Y, Ikeda M, Miyamoto Y, Nishi D. Longitudinal Change of Psychological Distress among Healthcare Professionals with and without Psychological First Aid Training Experience during the COVID-19 Pandemic. Int J Environ Res Public Health. 2021 Nov 26;18(23):12474. doi: 10.3390/ijerph182312474.
このページは、厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「国土強靭化計画をふまえ、地域の実情に応じた災害医療提供体制に関する研究(研究代表者:小井土雄一、研究期間:令和元年度~令和3年度)」「大規模災害時における地域連携を踏まえた更なる災害医療提供体制強化に関する研究(研究代表者:小井土雄一、研究期間:令和4年度~令和年度)」の西大輔(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野)分担班の研究成果を掲載しています。