COVID-19に対応したDMAT/DPAT隊員のPTSD症状との関連要因を示した研究

COVID-19に対応したDMAT/DPAT隊員のPTSD症状との関連要因を示した研究

2019年に世界中で COVID-19 の感染が拡大し、日本においても COVID-19 の感染拡大は重要な公衆衛生の問題でした。2020 年 2 月から 3 月にかけて DMAT および DPAT に所属するわが国の医療従事者は、病院外の派遣救援活動としてクルーズ船や帰国者滞在施設等において COVID-19 を罹患している可能性のある人の治療や検疫を実施しました。これまでの先行研究から病院内における COVID-19 等の新興感染症に対応した医療従事者においてPTSD 症状などのメンタルヘルスの問題が報告されていますが、所属病院外においてCOVID-19 等の新興感染症に対応した医療従事者のメンタルヘルスの状態やメンタルヘルスの悪化の関連要因は明らかにされていませんでした。

東京大学大学院医学系研究科精神保健学・看護学分野は DMAT 事務局および DPAT 事務局と共同で、2020 年 2 月から 3 月にかけて所属病院外にて COVID-19 の救援活動を行った DMAT および DPAT に所属する医療従事者を対象とした調査を行いました。調査は救援活動後の 3 月 11 日から 4 月 2 日に実施され、PTSD 症状と関連があると考えられる要因についてアンケート調査を行いました。PTSD 症状の関連要因について統計学的な手法によって検討しました。

所属病院外にて COVID-19 の救援活動を行った DMAT および DPAT 隊員 807 名のうち414 名から回答が得られ、全ての質問に回答した 331 名を解析対象者(男性 74.6%、平均年齢 43.0 歳、医師 31.1%、看護師 30.5%、業務調整員 38.4%)としました。救援活動中にCOVID-19 患者と接触した参加者は 105 名(31.7%)でした。病院外にて COVID-19 の救援活動を行った医療従事者において身体的および精神的疲労と周トラウマ期の精神的苦痛とがPTSD 症状と関連することが示されました。加えて、DMAT 隊員は DPAT 隊員と比較してPTSD 症状との強い関連が認められました。DMAT 隊員と DPAT 隊員の救援活動中の業務内容を考慮すると、救援活動中に感染症を罹患している可能性のある人と身体的な接触をすることは PTSD 症状と関連する可能性が示唆されました。本研究結果から、COVID-19 等の新興感染症の救援活動を行う医療従事者においてメンタルヘルスの問題を防止するには救援活動中においてもセルフケアのための十分な時間を確保できることが重要であることが示唆されました。

本研究成果は、新興感染症の救援活動後に PTSD 症状が強く現れる危険性が高い救援者の早期発見や、救援活動後の PTSD 予防策の構築に寄与することが期待されます。前向きコホート研究等を進めていき、COVID-19 の対応を行った医療従事者のメンタルヘルスの状態やメンタルヘルスの関連要因について長期的な調査をしています。

この研究は下記に研究成果が公表されました。

  • Asaoka H, Koido Y, Kawashima Y, Ikeda M, Miyamoto Y, Nishi D. Post-traumatic stress symptoms among medical rescue workers exposed to COVID-19 in Japan. Psychiatry Clin Neurosci. 2020 Sep;74(9):503-505. doi: 10.1111/pcn.13092.
  • 浅岡紘季、小井土雄一、河嶌讓、池田美樹、宮本有紀、西大輔. 所属病院内外において新型コロナウイルス感染症に対応した医療従事者の心的外傷後ストレス症状と心理的苦痛. トラウマティック・ストレス, 18(2), 155-167, 2020.
  • 東京大学大学院医学系研究科・医学部 プレスリリース:所属病院外において新型コロナウイルス感染症の救援活動を行った医療従事者の心的外傷後ストレス症状に関する調査
    https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20200722.pdf

 


このページは、厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「国土強靭化計画をふまえ、地域の実情に応じた災害医療提供体制に関する研究(研究代表者:小井土雄一、研究期間:令和元年度~令和3年度)」「大規模災害時における地域連携を踏まえた更なる災害医療提供体制強化に関する研究(研究代表者:小井土雄一、研究期間:令和4年度~令和年度)」の西大輔(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野)分担班の研究成果を掲載しています。