公共健康医学専攻精神保健学Ⅰ/健康科学・看護学専攻精神保健学特論Ⅰ

担当:精神保健分野 西大輔
○この授業は、公共健康医学専攻(精神保健学Ⅰ)、健康科学・看護学専攻(精神保健学特論Ⅰ)、公共政策学(精神保健学Ⅰ)の合同受業です。
第1回 オリエンテーション・総論(2021年4月11日(火)5限16:50-18:35)


1.精神保健学分野/精神看護学分野の紹介

  • 教授 西大輔(精神保健疫学、周産期メンタルヘルス、トラウマティックストレス)
  • 准教授 宮本有紀(精神看護、リカバリー、共同創造)
  • 特任准教授 今村幸太郎(職場のメンタルヘルス、認知行動療法)
  • 講師 佐々木那津(職場のメンタルヘルス、周産期メンタルヘルス、実装科学)
  • 特任講師 櫻谷あすか(職場のメンタルヘルス)
  • 助教 澤田宇多子(精神看護、リカバリー)
  • 特任助教 飯田真子(職場のメンタルヘルス)
  • 秘書 酒井博子
    授業のTAは金森由晃さん(精神看護学分野M2)です

精神保健学分野の研究プロジェクトの例

  • 世界精神保健調査日本調査
  • インターネット認知行動療法による周産期うつ病予防
  • トラウマインフォームドケアによる支援者の燃えつき軽減
  • 職場のメンタルヘルス、コロナ禍の労働者のメンタルヘルス
  • コロナ禍の医療従事者のメンタルヘルス
  • 健康日本21
  • 精神保健に関するシステマテイックレビュー・メタ分析
  • 国際精神保健(ベトナム看護師研究など)

2.授業の到達目標

  1. 精神保健の疫学、方法論、課題について説明できる(第1-4回)。
  2. 精神保健の第一次、第二次、第三次予防の科学的根拠の現状について説明できる(第5-8回)。
  3. 精神保健対策の具体例をあげることができる(第9₋11回)。
  4. 対象や課題に即して、科学的根拠に基づき精神保健対策を立案することができる(最終回)。

○ 授業を受けることで身につく技術

  1. 対策の科学的根拠の探し方、読み方と、これを現場の対策つなげる方法を学ぶことができる。
  2. 目的に向かったグループ活動を体験し、多様なメンバーとの協働とリーダーシップのあり方を学ぶことができる。

3.授業予定

日付時間帯内容形式・担当者
14/115限オリエンテーション・総論講義:西
24/185限精神疾患の疫学講義:西
34/255限精神保健サービスの利用講義:西
45/25限精神保健対策の社会実装講義:西
55/95限トラウマと災害精神保健講義:西、宮本
65/165限認知行動療法に基づいたアプローチ講義:今村、西
75/235限生活習慣に基づいたアプローチ講義:西
85/305限課題発表1:科学的根拠に基づく精神保健対策学生による発表
96/65限日本の自殺対策の概要と方向性講義:本橋豊先生(国立精神・神経医療研究センター)
106/135限認知症ケアの水準を高める講義:中西三春先生(東京都医学総合研究所)
116/205限薬物対策に何が必要か講義:松本俊彦先生(国立精神・神経医療研究センター)
126/275限発表準備学生による自習
137/45,6限※課題発表2:科学的根拠に基づく精神保健の対策を立案する

※最終回のみ授業時間が16:50-19:30となるので注意すること。

受講を希望される方は、以下の情報を4月17日(月)までに西(d-nishi@m.u-tokyo.ac.jp)、金森さん(kanamori0624@gmail.com)までメールで知らせてください。

名前:東大花子
所属:SPH1年コース
キャリア:医師6年目で、これまでに初期研修2年+精神科3年を経験しました。
関心:メンタルヘルス全般。特に虐待の長期的影響に関心があります。

 


4.授業の進め方

1)事前課題

あらかじめ指定された事前課題について自分で調べて、A4で片面1枚以内にまとめて、ITC-LMSで提出してください。レポートの冒頭には以下の情報を必ず記載してください。

授業名:精神保健学(特論)Ⅰ
事前課題:○○
提出日:2022年○月○日
学生番号:
学生氏名:
(AIの使用について)
※レポートの提出は成績評価の対象になります。

2)授業への出席

  • 小人数グループでのディスカッションがあります。
  • 課題発表1,2については小人数グループで調べ、企画し、発表していただきます。

※出席は成績評価の対象になります。

3)グループ分け

  • 4~6人の小人数グループにわかれていただきます。グループ分けは、4月18 日(火)に行います。課題1および課題2はこのグループ単位で進めていただきます。

4)課題発表1について

課題1:精神保健の科学的根拠となる論文を読もう!

グループごとに、精神保健の第1、2、3次予防に関連したランダム化比較試験(RCT)、システマティックレビュ-、あるいはメタ分析の論文一編を選んで読み、その内容を10分程度で紹介してください。

  1. 論文の選び方
    2001年以降に公表された英文論文を選んでください。推奨論文を【資料1】に示します。
    論文題名は5月9日(火)21時までに決めて、西、金森さんまでメールで知らせてください。
  2. 発表日
    5月30日(火)
  3. 発表方法
    発表10分、質疑5-10分。パワーポイントのスライドを画面共有して発表してください。スライド資料は教員・学生に事前に共有してください。

5)課題発表2について

課題2 科学的根拠に基づいた精神保健対策を立案しよう!

精神保健上の問題を1つ選び、これに対する対策を立案し、発表してください。

  1. ご参考までに、過去の発表テーマを【資料2】に示します。
  2. 発表日
    7月4日(火)16:50-19:30
  3. 発表方法
    発表15分、質疑10分。パワーポイントのスライドを画面共有して発表してください。スライド資料は教員・学生に事前に共有してください。
  4. 事前準備
    各グループは、発表テーマを6/13(火)21時までに決めて、西、金森さんまでメールで知らせてください。
  5. 発表のポイント
    ・対策の対象となる集団や解決する健康問題を具体的にしてください。
    ・必ず科学的根拠(エビデンス)を調べこれに基づいて対策を考えてください。良好実践事例があれば調べ、対策立案に生かしてください。
    ・現場のニーズ、現場の受け入れや実施可能性、コスト、実施後の評価も考慮してください。

最終レポートで求められている内容についても参考にしてください。
※課題発表2の出来を教員が評価します。これは成績評価の対象になります。

6)最終レポートの提出

成績は、事前課題の提出、出席、課題発表2および最終レポートにより総合的に評価します。

課題レポートの提出

  • 課題2の内容について、発表会での意見や議論を参考に、個人で課題レポートを作成し、7月19 日(火)までに、ITC-LMSで提出してください。
  • レポートはA4版横書き、和文または英文。レポートの表紙には、課題タイトル、専攻名、学年、グループ名、学籍番号、氏名を記載のこと。
  • 分量は表紙を含め3ページ以上。
  • レポートは以下の内容構成にすること
    1 問題の概要とその選定理由
    2 対象となる集団とその選定理由
    3 現状分析
    4 対策の基盤となる科学的根拠
    5 提案するプログラムの内容と期待される成果
    6 実装するための課題とその解決策
    7 プログラムの事後評価の計画、費用対効果
    8 総合評価
    (9 AIの使用について)
  • 課題2の内容はすでにグループで発表済みとして、その内容をレポートに含めない人がいますが、必ずグループでの検討内容を記載したうえでそれを個人で考え、よりよい内容にした上でレポートとして提出してください。

5.お勧めの副読本/ウェブサイト

疫学・予防医学に関して

  • 予防医学のストラテジー.医学書院, 1998
  • はじめて学ぶやさしい疫学-疫学への招待-.南江堂, 2002
  • ロスマンの疫学.篠原出版新社 2004
  • 因果推論の科学. 文藝春秋、2022

精神医学の診断と治療に関して

  • 古川壽亮、神庭重信(編).精神科診察診断学:エビデンスからナラティブへ.医学書院, 2003.
  • 米国精神医学(著)、高橋三郎/大野 裕(監訳). DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院, 2014.

メンタルヘルス関連のウエブサイト

 


付録 事前課題一覧

※事前課題について調べてください。参考文献はあくまで参考資料です。

日付事前課題参考文献
14/11課題なし総説:Prince M, Patel V, Saxena S, et al. No health without mental health. Lancet. 2007 Sep 8;370(9590):859-77.
24/18精神疾患の頻度はどのくらいか?総説:Nishi D, Ishikawa H, Kawakami N. Prevalence of mental disorders and mental health service use in Japan. Psychiatry Clin Neurosci. 73(8):458-465, 2019
34/25うつ病の人は精神科医療機関を受診すべきか?総説:Jorm AF, Patten SB, Brugha TS, Mojtabai R. Has increased provision of treatment reduced the prevalence of common mental disorders? Review of the evidence from four countries. World Psychiatry. 16:90-99, 2017
45/2精神疾患の社会的決定要因とは何か?総説:Lund C, Brooke-Sumner C, Baingana F, Baron EC, Breuer E, Chandra P, Haushofer J, Herrman H, Jordans M, Kieling C, Medina-Mora ME, Morgan E, Omigbodun O, Tol W, Patel V, Saxena S. Social determinants of mental disorders and the Sustainable Development Goals: a systematic review of reviews. Lancet Psychiatry. 5(4):357-369, 2018
55/9ACEとは何のことか?原著:Felitti VJ, Anda RF, Nordenverg D, et al. Relationship of Childhood Abuse and Household Dysfunction to Many of the Leading Causes of Death in Adults. The Adverse Childhood Experiences (ACE) Study. Am J Prev Med 14:245-258, 1998
65/16閾値下うつ病に対して認知行動療法は有効か?システマティックレビュー:Reins JA, Buntrock C, Zimmermann J, Grund S, Harrer M, Lehr D, Baumeister H, Weisel K, Domhardt M, Imamura K, Kawakami N, Spek V, Nobis S, Snoek F, Cuijpers P, Klein JP, Moritz S, Ebert DD. Efficacy and Moderators of Internet-Based Interventions in Adults with Subthreshold Depression: An Individual Participant Data Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Psychother Psychosom 90(2):94-106, 2021
75/23メンタルヘルスに良い生活習慣とは何か?総説:Sarris J, Nishi D, Xiang YT, et al. Implementation of Psychiatric-Focused Lifestyle Medicine Programs in Asia. Asia-Pacific Psychiatry 7:345-54, 2015
85/30事前課題なし
96/6日本の自殺対策とは?総説:Motohashi Y, et al. The Key Policies of Japan’s Suicide Countermeasures. Suicide Policy Research 2:1-6, 2019
106/13認知症施策推進大綱とは?https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00002.html

(参考文献)Lord K et al. Developing the New Interventions for independence in Dementia Study (NIDUS) theoretical model for supporting people to live well with dementia at home for longer: a systematic review of theoretical models and Randomised Controlled Trial evidence. Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology 2019

116/20薬物依存症とは?https://www.ncasa-japan.jp/understand/drug
126/27、

7/4

事前課題なし

 


【資料1】課題発表1の推奨論文

※これ以外から選んでいただいてもかまいません。

第一次予防

  1. 職場のストレス対策は効果があるか? (RCT)
    Tsutsumi A, Nagami M, Yoshikawa T, Kogi K, Kawakami N. Participatory intervention for workplace improvements on mental health and job performance among blue-collar workers: a cluster randomized controlled trial. J Occup Environ Med. 2009 May;51(5):554-63.
  2. e-learningによるメンタルヘルスファーストエイドは有効か?(RCT)
    Jorm AF, Kitchener BA, Fischer JA, Cvetkovski S. Mental health first aid training by e-learning: a randomized controlled trial. Aust N Z J Psychiatry. 2010 Dec;44(12):1072-81.
  3. わが国の自殺対策は効果があるか?(RCT)
    Ono Y, Sakai A, Otsuka K, Uda H, Oyama H, Ishizuka N, Awata S, Ishida Y, Iwasa H, Kamei Y, Motohashi Y, Nakamura J, Nishi N, Watanabe N, Yotsumoto T, Nakagawa A, Suzuki Y, Tajima M, Tanaka E, Sakai H, Yonemoto N. Effectiveness of a multimodal community intervention program to prevent suicide and suicide attempts: a quasi-experimental study. PLoS One. 2013 Oct 9;8(10):e74902.
  4. インターネット認知行動療法は労働者のうつ病発症を予防できるか?(RCT)
    Imamura K, Kawakami N, Furukawa TA, Matsuyama Y, Shimazu A, Umanodan R, Kawakami S, Kasai K. Does Internet-based cognitive behavioral therapy (iCBT) prevent major depressive episode for workers? A 12-month follow-up of a randomized controlled trial. Psychol Med. 2015 Jan 7:1-11.
  5. 子育て支援と経済強化プログラムで子どもへの暴力を減らせるか?(クラスターRCT)
    Lachman J, Wamoyi J, Spreckelsen T, Wight D, Maganga J, Gardner F. Combining parenting and economic strengthening programmes to reduce violence against children: a cluster randomised controlled trial with predominantly male caregivers in rural Tanzania. BMJ Glob Health. 2020 Jul;5(7):e002349.
  6. インターネット認知行動療法は周産期のうつ病発症を予防できるか?(RCT)
    Nishi D, Imamura K, Watanabe K, Obikane E, Sasaki N, Yasuma N, Sekiya Y, Matsuyama Y, Kawakami N. The preventive effect of internet-based cognitive behavioral therapy for prevention of depression during pregnancy and in the postpartum period (iPDP): a large scale randomized controlled trial. Psychiatry Clin Neurosci. 2022 Nov;76(11):570-578.

第二次予防

  1. 職場のうつ病スクリーニングは効果があるか?(RCT)
    Wang PS, Simon GE, Avorn J, Azocar F, Ludman EJ, McCulloch J, Petukhova MZ, Kessler RC.  Telephone screening, outreach, and care management for depressed workers and impact on clinical and work productivity outcomes: a randomized controlled trial. JAMA. 2007 Sep 26;298(12):1401-11.
  2. 一般医による外来でのうつ病スクリーニングは効果があるか?(メタ解析)
    O’Connor E, Rossom RC, Henninger M, Groom HC, Burda BU, Henderson JT, Biglerv KD, Whitlock EP. Screening for Depression in Adults: An Updated Systematic Evidence Review for the U.S. Preventive Services Task Force [Internet]. Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2016 Jan. Available from http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK349027/

第三次予防

  1. うつ病・不安障害に「しろうと」が行ったカウンセリングは効果があるか?(RCT)
    Patel V, Weiss HA, Chowdhary N, et al. Effectiveness of an intervention led by lay health counsellors for depressive and anxiety disorders in primary care in Goa, India (MANAS): a cluster randomised controlled trial. Lancet. 2010 Dec 18;376(9758):2086-95.
  2. 救急外来における自殺未遂者の自殺予防は可能か?(RCT)
    Kawanishi C, Aruga T, Ishizuka N, Yonemoto N, Otsuka K, Kamijo Y, et al. Assertive case management versus enhanced usual care for people with mental health problems who had attempted suicide and were admitted to hospital emergency departments in Japan (ACTION-J): a multicentre, randomised controlled trial. Lancet Psychiatry. 2014 Aug;1(3):193-201.
  3. 低・中所得国におけるタスク共有心理的介入とうつ病転帰との関連(メタ解析)
    Karyotaki E, Araya R, Kessler RC, et al. Association of Task-Shared Psychological Interventions With Depression Outcomes in Low- and Middle-Income Countries: A Systematic Review and Individual Patient Data Meta-analysis. JAMA Psychiatry. Published online March 23, 2022.

フルテキストの入手方法:
医学図書館 http://www.lib.m.u-tokyo.ac.jp/ からPubMedで検索。右上にfull textマークがでれば、クリックして雑誌のサイトからダウンロード。雑誌から無料でダウンロードできない場合には、UT Article Linkをクリックして、東京大学学術論文リンクから利用可能な電子ジャーナルを検索。

 


【資料2】課題2「精神保健対策を立案せよ!」過去の発表テーマ

令和3年度

グループ1オンラインピアサポートで産後うつ病予防
グループ2親子でマインドフルネス
グループ3わくわーくテレワーク大作戦
グループ4小田原市における、地域通貨を活用したコロナ禍のストレス軽減・メンタルヘルス向上プログラム
グループ5iCBTによる大学生のうつ・不安予防
グループ6ココロシフトプロジェクト

令和2年度

グループ1SNSを用いた、うつ病・不安障害などの潜在患者へのアウトリーチ
グループ2妊娠期のうつ病予防のための妊婦のヨガプログラム
グループ3IいのCちのBぼTたん~成人向け自殺予防iCBTプログラム~
グループ4もし地域で悩める人が日本版「LHC」の存在を知ったら~LINEによるこころの健康相談室~
グループ5マインドフル・リーマン
グループ6いよいよ新社会人!ソーシャルジェットラグに気を付けよう!

令和元年度

グループA「持続可能なギャンブル依存症対策」
グループB「研修医のMental Health First Aid促進プログラム~研修医を支えるのもまた研修医なのだ!~」
グループC「もう黒いネコとは言わせない!~ヒトの値段と自殺対策~」
グループD「Attention Please!! Program ~快適で健康な空の旅へのご招待~」

平成30年度

グループA「わたしってすごい!みんなすごい!和歌山県教育委員会への提案」
グループB「iCBTで産後うつ病予防」
グループC「都市部の小中学生向けの複合的なアプローチを活用した自殺予防対策」
グループD「下町ロケットを守ろう」

平成29年度

グループ1「授業をしながら元気になろう~中学校教師による『こころの授業』」
グループ2「人事院夏ノ陣、参加型介入ノ変 ー国家公務員のメンタルヘルス対策ー」
グループ3「農村部における自殺対策~北海道別海町に挑む!~」
グループ4「『いきいき!Cute Babyとともに!』iCBTによる産後うつ3次予防」
グループ5「医療従事者のメンタルヘルス対策」

平成28年度

グループ1「Cagayake! GIRLS ストレスFree!な WORKING!!-働く女性を対象としたiCBTアプリによる介入‐」
グループ2「災害救助者のCBTを用いたPTSD予防」
グループ3「大学生の自殺予防対策」
グループ4「自殺予防」
グループ5「中高生のLGBTに対するメンタルヘルス支援策の立案」